朝日新聞記事「砂糖の取りすぎ、精神疾患リスク?」に関する見解
令和3年12月14日
2021年12月
精糖工業会
2021年11月11日の朝日新聞夕刊に、「砂糖の取りすぎ、精神疾患リスク?」という記事が掲載されました。この記事は、「東京都医学総合研究所などの研究班が、思春期に砂糖を取りすぎると統合失調症などの精神疾患を発症するリスクの一つになる可能性があることが、マウスを使った実験でわかった」という内容です。
記事には具体的な論文の内容が記載されていないため、この記事の読者が単純に「砂糖を摂りすぎると精神疾患を発症しやすい」と誤解する可能性があります。
そこで、当会として、同記事の元となる論文*1、及び論文著者が所属する東京都医学総合研究所から公表されたトピックス(論文の概要)について確認した結果に基づき、以下に精糖工業会としての見解を示させていただきます。
なお、この見解は、論文や研究の有効性・妥当性及び社会的意義について言及するものではありません。
*1:米科学誌サイエンス・アドバンシスのオンライン版に掲載。題名「高ショ糖食は、マウスにおけるグルコース取り込み障害及び精神疾患関連の高次脳機能障害を伴う脳血管障害の一因になる」(原タイトル:”High-sucrose diets contribute to brain angiopathy with impaired glucose uptake and psychosis-related higher brain dysfunctions in mice”、https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abl6077)
東京都医学総合研究所のトピックス1)によると、研究で明らかになった4点は以下の通りとされております。
① 思春期に砂糖を過剰摂取すると、背景に精神疾患に対する遺伝的な脆弱性を抱えていた場合に、様々な精神疾患様の症状を呈することを、新たにモデルマウスを作製することで明らかにしました。
② 上記のモデルマウスを詳細に解析する中で、脳の毛細血管障害という精神疾患の新たな表現型を見出しました。
③ さらに、上記の脳の毛細血管障害のヒトでの一般性を検証し、統合失調症、双極性障害の患者さんの死後脳にモデルマウスと同様の血管障害を同定しました。
④ 作製した精神疾患モデルマウスでは、血中から脳内へのグルコースの取り込みが低下していることを見出しました。
研究で用いたモデルマウスは、もともと遺伝的に精神疾患を起こしやすいマウスを使用しています。また、マウスの試験結果を立証するためのヒトに関する研究では、統合失調症及び双極性障害の患者の死後脳を用いて検証していますが、その患者の方々の食事については、必ずしも砂糖の過剰摂取の記録を有するわけではないと記述されています。
そのため、今回の研究の結果を、ヒト、特に健常者に置き換えて説明することはできないと考えられます。
論文によると、餌の68%の炭水化物の大部分をβコーンスターチにした対照食と、68%の炭水化物の全てをショ糖にした高ショ糖食(試験食)で比較しています。試験期間中、マウスはこれらの餌しか食べませんが、その試験に用いられた餌については、次のようなことが考えられます。
まず、一般的なマウスの飼料は炭水化物が50~55%程度ですが、今回の試験に使われた餌の炭水化物配合量は68%であり、マウスの試験としては炭水化物の配合を多くしたものと考えられます。また、厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』(2020年版)によると、ヒトの炭水化物の目標量は50~65%2)と定められていますが、今回の試験は、それよりも多い炭水化物配合量での試験ということがいえます。さらに、今回の試験に用いた高ショ糖食は、餌中の炭水化物の全てをショ糖としていますが、これをヒトの食事として考えると、主食としてのごはんやパンや麺類などの炭水化物の全てをショ糖として食べることになり、ありえない食生活であると考えられます。
今回の研究は、仮説を立証するための試験であり、そのために遺伝的に精神疾患を起こしやすいマウスを使用して、かつ、ヒトの食生活ではありえない量の砂糖を与えた試験となっています。そのため、このマウスの試験結果を単純にヒトに当てはめることはできないと考えられます。
1 ) 東京都医学総合研究所トピックス:
https://www.igakuken.or.jp/topics/2021/1111.html
2 ) 日本人の食事摂取基準(2020年版):
http://www.city.koshigaya.saitama.jp/kurashi_shisei/fukushi/hokenjo/eiyou/koshigaya_shokujisesshukijun.files/eiyousonadomeyasu.pdf
以上